真夜中の公園。いつもより寂しげな雰囲気が漂う。チビ太は店じまいを始めようかとしていた。ふと、空を見上げて思うことがある。
最近、あいつらが来ないな……。
長男がいなくなって大変なことになっているとは聞いた。しかし、あいつら六つ子がいないと、調子が狂うのも事実。少し、心配だ。
そこに、のれんをくぐる影が現れた。
「お、悪いね、お客さん。今日はもう閉じようかと――」
チビ太は影の正体を見、尻すぼみに言葉を濁した。開いた口が塞がらない、というのはこのことか。目を見開き、乾いた唇を開いて影の正体を口にした。
「おそ松――」
「よっ」
松野家で突然姿を消した長男――松野おそ松がそこにいつもの調子で佇んでいた。
「おまっ、どうして! みんな心配して……!」
何から聞けばいいのか、チビ太は混乱しておそ松を見た。おそ松は「まぁまぁ」と笑い、チビ太をなだめた。チビ太が怒ったような、悲しいような、そんな表情をして口を閉じると、おそ松は苦笑して椅子に座った。
少し静かな時間が経った。肌が痛いような凍った風が頬を撫でつけ、2人は白い息を吐いた。そうしていると、おそ松が不意に口を開いた。
「あのさ、チビ太」
頬杖を突き、空を見上げて何か思い焦がれるような佇まいでそう呟いた。
「俺、生きんの嫌になってきた」
「は、はあ⁉」
思いもしない発言に怒号と悲痛が混じるような声を出す。
おそ松は目線をチビ太に移し、ニヤリと笑って見せた。
「なーんちゃって。嘘、嘘」
右手をひらひらと振って、おそ松は机に突っ伏した。
「……でもな、本当に死にたいなって思うくらい弟とうまくいってねーんだよ。どうすっかな」
腕にうずめていた顔を上げ、目だけを伏せるおそ松に、チビ太はどこか安心感をおぼえた。少し口元をほころばせると、おそ松の隣におでんを置いた。そのおでんは、風に当たって生ぬるくなっていたが、冷えた体を温めるにはちょうどよかった。
「そんなの、いつもみてーに仲直りすんだろ? 今悩んでもしょうがねえじゃねえか。しっかりしやがれ、バーロー」
おそ松は目線をチビ太に移し、目を細め、笑った。
「そっか。そうだよな。ごちそーさん、チビ太」
横に置かれたおでんを一口つまんで、おそ松は立ち上がった。そして、家に向かって歩き出していった。
「おう! ……あ。金払えバーロー!」
チビ太の久々の叫びは寒空にこだました。