「!」
チョロ松は屋上の入口に目を向けた。おそ松はいる。どこからか安心感が湧いて、顔がほころんだ。それに気が付くと、チョロ松はキュッと口を結んで、屋上を覗いた。見えたのは、チョロ松の安心を壊す光景だった。
「え……」
おそ松が屋上の柵をこえ、小さな足場に立っていた。今にも落ちてしまいそうだ。
長年の勘、とはよく言ったものだ。ここまで一緒に生きていると、あたってほしくないところまで予測できるのだろう。
気が付くとチョロ松は叫んでいた。
「おそ松兄さん!」
おそ松がこちらに顔を向ける。その目は大きく見開かれた。その直後だろうか。
おそ松の体は徐々に傾いて、柵とは反対の方向に落ちていった。
「あ……」
おそ松の姿はもう見えなくなっていった。チョロ松はハッとすると来た道を引き返した。全速力を出し切って走った。体力を使い切ったような気になっていたが、まだ走れる。
チョロ松は家に帰ると、急いで布団に潜り込んだ。午後2時。寝るのには早すぎる時間帯だが、チョロ松は今の光景を忘れようと、悪夢を見ただけだと、そう願ってギュッと目をつぶった。