「おそ松、にい、さん?」
まさに、昨日喧嘩したばかりである自分より2つ上のおそ松である。
「え、さっきまで家にいたのに、なんで?」
不思議に感じるのはそれだけではない。どこかふらついた足取り。今にももつれてこけてしまいそうだ。それでもなんとか歩いている。右手はなぜか前に突き出し、誰かと話しているように口はすばしっこく動いている。聞き取れる距離ではないのでわからないが。
怖い。
なぜだか知らないが、チョロ松はそんな気がした。自分の意思で動いていないような気がする。長年の勘というやつであろう。チョロ松は全身に不安がよぎり、おそ松から目が離せなかった。
「おそ松兄さん……」
気づけばあとをつけていた。昨日の事があるので近くに寄ったり、話しかけたりするのは勘弁だ。チョロ松は物陰に隠れながら顔が同じ兄弟を追跡した。通行人の中にはチョロ松の様子をみて通報をするか戸惑っているものもいる。そんなこと気にしている場合じゃなかった。ただの勘をたよりに、チョロ松はおそ松を追った。
着いたのはビルだった。ふらつきながらビルの中へ入るおそ松を、チョロ松は速くなる鼓動をおさえながら追いかけた。
「こんなとこ、来たことないのに……」
中は殺風景だった。人も見当たらない。受付のようなところもあるが、人はいなかった。
「何、ここ? ないやってんの?」
不意に出てきた気持ちをそのまま声に出す。しばらくあたりを観察していると、おそ松を見失った。
「!」
危ない。怖い。どこ行くの? 何してんの?
次々と湧いて出る不安を隠しきれず、チョロ松は震えた。この感情がただの勘な気がしなかった。
チョロ松はホールをぬけて階段を走ってのぼった。元から体力はある方ではないが、昔いたずらを仕掛けては逃げていた。その時のすばしっこさは体がおぼえている。
その時、段差につまずいて、壮大にこけた。手をつき、顔面直撃は免れたが、時間をくってしまった。痛む膝を叩き、立ち上がる。そしてまた、走って駆け上がった。
「はぁっ……んっ、はぁっ……!」
喉に唾がつまって息苦しい。
やっと屋上までたどり着くと、息を荒くしてその場にしゃがみこんだ。喉から口にかけてが痛い。
「はっ……はぁ……」
チョロ松が息を深く吸い込んだ時だ。
「何すんだよ!」
おそ松の声が聞こえた。