チョロ松が帰ると、もう4人は帰ってきているようだった。少しではあるが、慌てた声が2階から聞こえる。チョロ松はボーッとしながら部屋に入った。チョロ松が帰ってきたことに気づくと、トド松はチョロ松の肩をつかんだ。
「どうだった⁉ おそ松兄さん、いた⁉」
「……え?」
「だから、おそ松兄さんみつけ――。……どうしたの、チョロ松兄さん? なんか、おかしいよ?」
トド松が不安そうに顔色をうかがってくる。それを見て、チョロ松は顔色が悪くなっていたことに気づいた。
「大丈夫、大丈夫だから……」
キュッと胸に手を当て、チョロ松は苦しそうにつぶやいた。
「で、いたか? チョロ松」
カラ松も心配した様子で聞いてくる。
そういえば、もう午後だ。時間が経つのは早いもので、もうその時間は戻ってこない。わかっているようで、難しいことだ。
チョロ松が黙っていると、一松が話し始めた。
「チョロ松兄さん、おそ松兄さん見た? 俺らはパチンコ見てまわってたけどいなかったよ。てか、チョロ松兄さんはどこに行ってたのさ」
一松の淡々とした口調に少し後ずさった。いつもより、みんな真剣になっているのは、やはり勘が働いているのだろう。
「これ、やばいよ。やっぱ、警察とか、呼んだほうが……」
トド松が目を伏せながらそう言った。次の瞬間、チョロ松は思考より先に口が動いていた。
「警察なんかいらないっ――!」
その言葉は予想以上に部屋に響いていた。兄弟はもちろん、チョロ松自身も驚いていた。
なんで、そう思ったのかは自分でもよくわからない。ただ、1つ思い当たる節があると言えば――
チョロ松はごまかすように、次の言葉を懸命に探した。
「えーと、その……ほら、僕、みたよ。おそ松兄さん。イタズラしてる時の顔で笑ってどっか行っちゃったけど」
チョロ松は曖昧に微笑み、兄弟の様子をうかがった。
「なぁーんだ」
空気を和ますように、十四松が笑って言った。それに続き、トド松も笑った。
「もー、余計な心配しちゃったよ。あのクソ長男、帰ってきたらお仕置きと説教おぼえといてよねー!」
「チョロ松は昔からおそ松といることが多かったからな。居場所がわかったのも意思疎通な部分があるからかもな」
カラ松が微笑むと、チョロ松の胸はギュッと締め付けられた。それを表に出さぬよう、チョロ松は「うん」とうなずいた。
「猫缶おごらせてやる……」
一松も、安心したように笑った。
「そうだな、おそ松に心配かけさせられたから、いないうちに梨食べるか、ブラザー?」
珍しくカラ松がにやりと笑う。そして、十四松を先頭に「梨ー!」と、下へ降りていった。
チョロ松はそんな兄弟の様子を見てため息をつくと、部屋を出て、戸を閉めた。