「――で? おそ松兄さんは怒って出て行ったと」
トド松が気だるそうに机を一定のリズムで叩いた。
「まあ、そうだけど」
「ほんっと、めんどくさいよねー」
チョロ松に向けて、長い溜息をつく。
「でも、おそ松兄さんが悪いだろ?」
「まあねー。ボクも一理あるよ? でもさ、他の兄弟巻き込まないでよ、めんどくさいし」
「ただめんどくさいだけでしょ⁉」
チョロ松がツッコミを入れる。その様子を見ると、機嫌はなおってきたようだ。
「トッティーに賛成。巻き込まないで」
一松が一応挙手して言う。十四松は心配なのか、玄関でおそ松の帰りを待っている。
「チョロ松、ちょっと、おそ松に言いすぎていたぞ」
「えぇ?」
カラ松にまで言われ、チョロ松は顔をしかめた。
「たしかに、チョロ松兄さん言い過ぎー。うっとうしいって。本当に思ってるわけ?」
「それはっ……」
チョロ松が言葉につまってうなる。それと同時くらいに玄関から声がした。
「おそ松兄さん!」
十四松の、心底安心したという声が聞こえる。
「おかえり!」
おそ松の声はしない。まだすねているのだろうか。ふすまが開き、おそ松が姿を現した。
「おかえりー。どこ行ってたの?」
トド松の問いには答えず、おそ松はあたりを見渡してつぶやいた。
「せまいな」
「は?」
一松がいきなりの言葉に驚いていると、おそ松は笑った。
「お前らさ、自立とか考えないわけ? 正直、お前らといんの飽きた」
「おそ松兄さん?」
いつもとは全く違う声色に不信感を抱く。おそ松は誰とも目を合わせずにつぶやいた。
「1人の世界があったらなぁ……」
すねているわけじゃない。怒っているわけでもない。ただ、なんというか、思ったことをそのまま声に出している。そんな感じだ。
沈黙が続き、ぎこちない。空気を変えようと、カラ松が言う。
「そうだ、おそ松。明日、初詣行かないか?6人で一緒に――」
「行かない。5人で行って」
「……そうか」
年末年始。テレビは祝い、街は賑わっている。多くの人が目標を持って1年を望む。その中で松野家は最悪のスタートを切った。