バサッ
「え――?」
チョロ松が目にしたもの。それはページがバサバサと降って落ちていく写真集だった。裏表紙と表紙は裂けてつながっていない。中には奇妙な形に破けたページもあった。1つのページを見てみると、ちょうど橋本にゃーの顔の部分で裂けていた。
「……」
「……あの、チョロ松?」
おそ松が言ってみるが、チョロ松は反応を見せなかった。ただ、破けた写真集を拾い集めている。大体を拾い集めるとそれをおそ松につきつけた。
「謝って」
「は?」
もっと長々とした言葉を放ってくると予想していたおそ松は、その文字少なさにぽかんとした。
そんなおそ松にかまう様子もなくチョロ松は淡々と言った。
「わずかな貯金切り詰めて買った写真集だったのに。それも初日で完売するくらいの貴重なもの。ライブ会場限定商品、ネット販売の禁止されたやつ。謝って」
謝ってもらったところでどうにもならないことはチョロ松にもわかっていた。ただ、気持ち的な問題なのだ。
今にも泣きそうな、怒りと悲しみの入り混じった表情を見せるチョロ松。おそ松ははっとしたと思うと顔をしかませた。
「いや、悪かったって。でもさ、チョロ松も引っ張ってたじゃん? お前のせいでもあるでしょ?」
「そんなのどうだっていい。人の私物を勝手に触らないで」
「……兄ちゃんにその口はないんじゃない? チョロ松」
さすがにおそ松も、チョロ松の態度に不満を感じたようで、真面目な顔になった。チョロ松は、鋭い眼差しをおそ松から離さずに吐き捨てるように言った。
「長男とか、よく言うよね。長男だから何? だいたい、六つ子でしょ。生まれた時間なんて数分違うだけだし。同じ日に生まれたじゃん。長男面しないでよ、うっとうしい」
うっとうしい。その言葉におそ松は怒りを感じた。気づけば、怒鳴っていた。
「たった数分でも兄は兄で弟は弟だろ⁉ 兄貴面しないでって何⁉ こっちは兄ちゃんだからって我慢させられたわ! 弟に優しくしろって⁉ 好きで長男やってるわけじゃねーし、こんなことなら一人っ子の方がよかったわ!」
息を荒くして怒鳴ってみたが、チョロ松がおそ松に向ける眼の冷たさは変わらなかった。気づけば、上に避難していた弟3人もふすまの影からこちらの様子を伺っている。
「じゃあさ、一人で暮らせば? そっちのほうが僕も安心できるし、おそ松兄さんだって一人っ子気分味わえるでしょ?」
予想外の言葉だった。チョロ松は俺のことをそんな風に見ていたのか。
そう思うと、胸の奥で痛むものがあった。それを紛らわせるように歯を食いしばると、おそ松は舌打ちをした。
「ああ、そうかよ。別にいいし。俺もお前らと居んの飽きてたし? ちょうどいいかもな。てかチョロ松が自立すれば?」
「そうしたら、物も壊れねーかもな」と、おそ松は笑った。その笑みは笑ったとは言い難い、悲しいものだった。
おそ松はチョロ松に背を向けると、家から出ていった。