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六色 0-2

「にゃー、ちゃん……?」

 元から小さい瞳をさらに小さくして唖然とするチョロ松。おそ松の読んでいた雑誌は求人誌でもハロワでもない、橋本にゃーの写真集だった。それもライブ会場限定販売の貴重品。熱味を帯びた会場のさらにむさくるしい男ばかりの中に挟まれながら必死になって手にした写真集の重みを、チョロ松は、今でもおぼえているくらいだ。

 そのつぶやきでチョロ松の存在に気づいたおそ松が平然とした顔で言った。

「おかえりー。レイカのやつ見てたけど、やっぱお前の気持ちわかんねーな。レイカのどこがいいわけ? クラスに居るレベルだと思うけどね」

 謝る気なんかさらさらないという態度にカチンと来る。

「ただいま。クラスにこんな可愛い子いたら絶対騒ぎになると思うけどね? あとレイカじゃなくてにゃーちゃんだから」

 暖かな気分を壊したくないのか、チョロ松は笑顔で言う。だがその額には青筋が浮き出ている。

「おそ松兄さん、なんか僕に言うことない?」

「は?」

 は? は、こっちのセリフだ。馬鹿なのかこいつ。いや、馬鹿か。

 おそ松はしばらく悩んだあと、ひらめいた! と言うようにパッと顔を上げた。

「今日はパチンコ負けたよ! ダメだったな」

 プッツン――

 堪忍袋の緒が切れる音がした。その0・5秒後、チョロ松は我を忘れたように叫んでいた。

「馬鹿なの⁉ にゃーちゃんに興味ないなら勝手に読まないでよ! ほんっと最低! まず人のもの勝手に読むとかありえない! 一言いるでしょ⁉ あとパチンコって何⁉ 行ってきたの? それ親の金だから! そんなことする暇あるなら定職に付け! てか、早く返してくんない⁉」

 弟たちが耳をふさぐ。カラ松は状況に頭が追いつかないのか、きょとんと口を開けていた。そしておそ松は、写真集に伸びたチョロ松の手をサッとよけた。当然のようにチョロ松の手は宙をかいた。

「⁉」

「無理ー。お前の言うこと素直に聞くと思う?」

 にやけながらチョロ松を見下すおそ松。さすが弟にかまって欲しいお兄ちゃんだ。むしろ尊敬するほどであるから呆れる。

 チョロ松の表情が明らかに変わったのは、その1秒もしない間だろう。

 

 それから1時間。まだ喧嘩は続いていた。兄弟の大半は呆れて2階に上がっていた。残っているのはやっと状況が理解できたカラ松と喧嘩中の2人だ。

「かーえーせー!」

「いーやーだー」

 写真集を引っ張り合う二人。だんだんと、表紙の橋本にゃーかわいそうになってくる。

「破れるだろ! はなせよバカ! クズ! ほんと、一回死んで!」

「じゃ、死のうか?」

「そういうことじゃないー!」

 ギャーギャー騒ぎ立てる2人にカラ松は、控えめに言った。

「ぶ、ブラザー、けんかは、よく、ないぞ?」

「うっさいな! カラ松は黙ってて!」

……はい」

 涙目で返事をするカラ松。ヘタレだ。

「あーもー、返せってば‼」

 チョロ松が手に込める力を強くした時だった。


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