「一松!」
「一松兄さん!」
カラ松とトド松が呼び止めるも、一松は背を向けたままだった。カラ松が追いかけようとしたそのとき、おそ松が言った。
「やめとけよ。一松も疲れてるんだろ。ばかみてーに長男様を怒鳴りやがって――」
「やめろ」
6人の中でも低い、その声がおそ松の声をさえぎった。
「次言ったら、たとえ兄であっても殴る」
そう言って、カラ松はおそ松をじっと見た。
――ひどい、顔だった。
おそ松が何も言わないでいると、カラ松は一松を追いかけて行った。それを見て、あわてたようにトド松、十四松と追いかけて行った。残されたのは、チョロ松とおそ松だ。チョロ松も追いかけたかったようだが、足がすくんで立ち上がれない。そんな自分に呆れてか、呆然としてふすまを見つめていた。
しばらくの沈黙が流れた。そして、ふすまを見つめたまま、声を絞って、チョロ松が聞いた。
「誰、なの……?」
その言葉に、チョロ松自身が震えた。望んだ答えを自ら突き放したような気がしてならなかった。
おそ松は、チョロ松に目を落とし、しばらく考えてから意地の悪い、冷ややかな笑みを顔に浮かべた。ゆっくりと歩き出すと、座っているチョロ松の肩を、腰を落としてつかんだ。
「松野おそ松、だ」
また、チョロ松の背筋が凍った。一歩間違えると殺されてしまいそうな恐怖さえも感じた。恐怖と不安で固まるチョロ松を、おそ松は満足そうにじっとりと笑い、家を後にした。
気がついた時には、全身に汗が滲み、ガタガタを震えていた。途切れ途切れの息とおぼつかない体に、チョロ松は現実から逃げるように目を閉じた。